市役所はゴミ屋敷問題に対応するための重要な窓口ですが、その対応は常に困難を伴います。個人の財産権やプライバシーへの介入となるため、法的な制約が多く、本人の同意なしに強制的な措置を取ることは容易ではありません。また、住人が支援を拒否したり、精神的な問題を抱えていたり、関係者が複数いて調整が難航したりするケースも少なくありません。しかし、困難な状況の中でも、市役所が関係機関と粘り強く連携し、解決に至った事例も存在します。例えば、ある地域で長年ゴミ屋敷として問題になっていた一人暮らしの高齢者Aさんのケース。近隣からの苦情を受け、市役所の環境課と地域包括支援センターが連携して対応を開始しました。当初、Aさんは訪問を拒否し、「自分の問題だ、放っておいてくれ」と主張していました。しかし、職員が諦めずに定期的に訪問し、Aさんの健康状態を気遣う声かけを続けるうちに、少しずつ心を開くようになりました。アセスメントの結果、Aさんには軽度の認知症と、配偶者を亡くしたことによる抑うつ傾向があることが分かりました。そこで、ケアマネジャーを中心に、医療機関、訪問看護、ヘルパー、そして片付けを支援するNPO法人などが参加するケア会議を開催。Aさんの意向を確認しながら、医療的なケア、介護サービスの導入、そして段階的な片付け支援の計画を立てました。片付け作業は、Aさんの精神的な負担に配慮し、NPO法人のスタッフがAさんと一緒に物を仕分ける形で進められました。時間はかかりましたが、家の中は見違えるように綺麗になり、Aさんの表情も明るくなりました。その後も、定期的な見守りやデイサービスの利用などを継続することで、再発を防いでいます。この事例の成功要因は、市役所の担当者が諦めずに本人との信頼関係を築いたこと、そして、医療・福祉・地域・民間団体といった多職種がそれぞれの専門性を活かし、情報を共有しながらチームとして連携したことにあります。すべてのケースがこのようにうまくいくわけではありませんが、困難な状況であっても、関係機関が連携し、本人の尊厳を守りながら粘り強く関わることで、解決への道筋が見えてくる可能性はあるのです。