親などが亡くなり、遺産相続の手続きを進める中で、残された実家が想像を絶するほどの「ゴミ屋敷」だったという現実に直面するケースが増えています。思い出の詰まったはずの家が、足の踏み場もないほどの物で溢れ、衛生状態も悪化している。このような状況に遭遇した相続人にとって、「相続放棄」は現実的な選択肢の一つとして浮上します。なぜ、ゴミ屋敷の相続において相続放棄が検討されるのでしょうか。最大の理由は、その莫大な片付け費用と手間です。ゴミ屋敷の清掃は、単なる大掃除とは全く異なります。大量のゴミの分別・搬出・処分には専門的な知識と技術、そして多くの人手と時間が必要です。不用品の量や種類、家の広さ、作業の難易度によっては、片付け費用が数百万円に上ることも珍しくありません。特殊清掃やリフォームが必要になれば、費用はさらに膨らみます。相続財産の中に、この高額な片付け費用を賄えるだけの預貯金や有価証券があればまだしも、不動産以外にめぼしい財産がない場合、相続人が自己負担で費用を捻出しなければならなくなります。この経済的な負担が、相続放棄を決断させる大きな要因となります。また、金銭的な問題だけでなく、精神的な負担も無視できません。故人が溜め込んだ大量の物と向き合い、一つ一つ整理していく作業は、精神的に非常に辛いものです。思い出の品を見つけて感傷に浸る間もなく、膨大なゴミの山に立ち向かわなければならない現実は、相続人の心を疲弊させます。遠方に住んでいる場合は、片付けのために何度も実家に通う必要があり、時間的・肉体的な負担も大きくなります。さらに、ゴミ屋敷を相続するということは、その不動産に対する管理責任も負うことを意味します。固定資産税の支払いはもちろん、建物が老朽化していれば修繕が必要ですし、万が一、ゴミ屋敷が原因で火災が発生したり、建物の一部が崩れて隣家に損害を与えたりした場合には、損害賠償責任を問われる可能性もあります。これらの経済的、精神的、時間的、そして法的な負担やリスクを総合的に考慮した結果、相続することのメリットよりもデメリットの方が大きいと判断した場合に、相続放棄という選択がなされるのです。
ゴミ屋敷相続放棄が選択肢になる理由