家の中にゴミが溜まり始め、徐々に足の踏み場もなくなっていく。この「ゴミ屋敷化」という現象は、単なる住環境の問題として片付けられがちですが、実は、住んでいる人自身が発している「セルフネグレクト(自己放任)」の危険信号である可能性が高いのです。セルフネグレクトは、自分自身の心身の健康や安全を守るための行動をとれなくなる状態を指します。ゴミ屋敷化は、その中でも比較的、外部から気づきやすいサインの一つと言えます。生活に必要なスペースがゴミで埋め尽くされている状態は、明らかに通常の生活を送ることが困難であることを示しています。ゴミを適切に処理できない、あるいはする意欲がないという事実は、本人が生活を維持するための基本的な能力や気力を失っている可能性を示唆します。ゴミ屋敷の中をよく見ると、さらに深刻なセルフネグレクトの兆候が見つかることもあります。例えば、食べかけの食品が腐敗したまま放置されている(適切な食事が摂れていない可能性)、排泄物が処理されずに溜まっている(衛生管理能力の低下)、大量の未開封の郵便物や請求書が放置されている(社会生活の維持が困難になっている可能性)、薬が手付かずで残っている(必要な医療を受けていない可能性)などです。これらの状況は、本人の健康状態や安全が脅かされていることを示しており、放置すれば命に関わる事態にもなりかねません。重要なのは、ゴミ屋敷という「見える問題」の背後にある「見えない問題」、つまりセルフネグレクトの原因に目を向けることです。その原因は、精神疾患、認知症、身体疾患、社会的孤立、経済的困窮など様々です。ゴミ屋敷を発見した際には、「汚い」「迷惑だ」と非難するだけでなく、「この人は何か大変な困難を抱えているのではないか」「助けが必要なのではないか」という視点を持つことが重要です。ゴミ屋敷は、本人からのSOSサインかもしれません。そのサインを見逃さず、早期に適切な支援(医療、福祉、地域など)に繋げることが、本人の命と尊厳を守り、問題の深刻化を防ぐための鍵となります。
ゴミ屋敷化はセルフネグレクトの危険信号