一度はすっきりした部屋が、時とともにまた物で溢れてしまう。このゴミ屋敷の繰り返し現象の裏には、人間の複雑な心理が働いています。「片付けが苦手」という単純な理由だけでは説明できない、深い心の動きがあるのです。一つは「損失回避」という心理です。人は何かを得る喜びよりも、失う痛みの方を強く感じる傾向があります。そのため、「いつか使うかも」「もったいない」という気持ちが強く働き、物を手放すことに大きな抵抗を感じてしまうのです。たとえ今使っていなくても、それを失うことを避けようとする心理が、物を溜め込む行動につながります。また、「現状維持バイアス」も影響しています。人は変化を嫌い、慣れた状態を続けようとする傾向があります。ゴミ屋敷の状態が長く続くと、それが本人にとっての「日常」となり、片付いた状態にむしろ違和感を覚えたり、維持する努力を面倒に感じたりすることがあります。無意識のうちに、元の「慣れた」状態に戻ろうとしてしまうのです。さらに、心のストレスや過去のトラウマが、物を溜め込む引き金になることも少なくありません。孤独感、不安感、低い自己肯定感などを抱えていると、物を所有することで一時的な安心感や満足感を得ようとすることがあります。物は裏切らない、心を慰めてくれる存在として、心の隙間を埋める役割を担ってしまうのです。この場合、ストレス源がなくならない限り、物を溜める行動は繰り返されやすくなります。買い物依存や収集癖といった行動パターンが関わっているケースもあります。物を手に入れる過程や集めること自体が目的化し、その結果として部屋が物で埋め尽くされるのです。これらの行動は、脳内の快感物質と関連しており、自分の意志だけではコントロールが難しい場合があります。加えて、ADHDなどの発達障害の特性が影響している可能性も考えられます。計画性のなさや衝動性、整理整頓の困難さが、片付けを妨げ、物が無秩序に増える原因となり得ます。このように、ゴミ屋敷の繰り返しは、意志の弱さではなく、様々な心理的要因が絡み合った結果です。解決のためには、物理的な片付けと並行して、これらの心理的背景を理解し、必要であれば専門的なサポートを受けることが不可欠です。
物が再び溜まるのはなぜ?ゴミ屋敷の心理