特殊清掃業者である我々の元に、一本の電話が入った。依頼主は、遠方に住む息子さん。高齢の父親が一人で暮らす実家がゴミ屋敷と化し、近隣から「異臭がする」と苦情が殺到しているという。現場に到着し、ドアを開けた瞬間、むせ返るような腐敗臭と、おびただしい数のハエが我々を出迎えた。床は長年放置されたであろうゴミで埋め尽くされ、そのところどころで、無数の白い塊、ウジ虫が蠢いていた。この仕事には慣れているはずの我々でさえ、思わず息を呑む光景だった。我々の作業は、まず防護服と防毒マスクを装着することから始まる。次に、強力な業務用殺虫剤を空間全体に噴霧し、ハエの活動を止め、ウジ虫を駆除する。その後、ゴミの分別と搬出作業に移るが、ここでも細心の注意を払う。ウジ虫の発生源となっている腐った食品や汚物を、他のゴミと混ぜることなく慎重に梱包し、感染性廃棄物として適正に処理するためだ。全てのゴミを撤去し、床や壁が剥き出しになった後、本当の戦いが始まる。床や壁に染み付いた体液や汚物を、専用の薬剤を使って丁寧に除去。高圧洗浄機で汚れを削ぎ落とし、最後にオゾン脱臭機を稼働させる。オゾンが持つ強力な酸化作用で、部屋の隅々にこびりついた臭いの分子を根こそぎ分解するのだ。数日後、全ての作業を終えた部屋は、あの惨状が嘘のように、清潔な空間へと生まれ変わっていた。我々の仕事は、単に部屋を綺麗にすることではない。ウジ虫という生命の危機を知らせるサインと向き合い、人が尊厳を持って生きるための最低限の環境を取り戻すこと。それが、我々特殊清掃業者の使命なのだ。