ゴミ屋敷問題を裁判沙汰にせず、話し合いによる示談で解決できれば、それが最もコストも時間も抑えられる方法です。しかし、この「話し合い」こそが最も難易度が高いのが実情です。ゴミ屋敷の住人の多くは、社会から孤立していたり、強い執着心を持っていたり、あるいは周囲に対する不信感を抱いています。そこへ直接乗り込んで改善を迫っても、激しい拒絶反応に遭うのが目に見えています。ここで弁護士が必要とされる理由は、交渉の土俵を「感情」から「法」へと移せるからです。弁護士は交渉のプロとして、冷静沈黙に相手の話を聞きつつ、こちらの主張を法的な根拠に基づいて伝えます。例えば、「このまま放置すれば、これだけの損害賠償が発生する可能性がある」あるいは「契約を解除されれば住む場所を失うことになる」といった、客観的な不利益を提示することで、相手に事の重大さを認識させます。また、弁護士が入ることで、住人の家族も話し合いのテーブルにつきやすくなります。本人は頑固でも、家族であれば「弁護士が出てきたのなら、もう放っておけない」という心理が働き、協力が得られるケースも少なくありません。示談交渉において弁護士が作成する合意書には、清掃のスケジュールや費用の負担、さらには二度とゴミを溜めないための約束事項などが盛り込まれます。もしこの約束が破られた場合に、即座に強制執行が可能となる「執行受諾文言付き公正証書」を作成しておくといった高度なテクニックも、弁護士がいればこそ可能です。自分たちだけで交渉しようとして疲れ果て、問題を先送りにしてしまうのではなく、プロの交渉術を活用して着地点を見つけることが、ゴミ屋敷問題から解放されるための最短ルートとなります。弁護士は、単に法律を振りかざす存在ではなく、対話が困難な相手との架け橋となり、現実的な解決を引き出すための熟練したコーディネーターなのです。兄弟で実家を相続したり、夫婦で共同購入したりした不動産が、一人の共有者のせいでゴミ屋敷化してしまった場合、その解決はさらに複雑さを増します。共有不動産の場合、各共有者はその不動産の全部について、自分の持ち分に応じた使用権を持っていますが、一方で建物の保存行為や管理行為には一定のルールが存在します。例えば、ゴミの撤去を「保存行為」とみなせば、一人の共有者が単独で行える可能性がありますが、それが大規模な清掃やリフォームを伴う「管理行為」であれば、持ち分の過半数の賛成が必要です。さらに、建物を解体して更地にするような「変更行為」であれば、共有者全員の同意が必要となります。弁護士に相談すべき最大の理由は、この複雑な権利関係を整理し、法的根拠を持って片付けを進めるためです。ゴミを溜め込んでいる共有者に対して、他の共有者は「善良な管理者の注意をもって不動産を管理せよ」と主張し、管理義務違反を問い正すことができます。もし話し合いが進まない場合は、弁護士を介して「共有物分割訴訟」を提起することも一つの解決策です。これは、不動産を売却して現金で分けるか、あるいは一人が他の共有者の持ち分を買い取るといった形で、共有状態そのものを解消する手続きです。